No.8/2004年12月4日
絵と文:香泉

国境で私を迎えてくれたのは
救世主の名が彫られた入国スタンプでした
旅行者はあまりいないようです
とは言え、この国の娼婦の優しさについて
旅行者間で交わされる囁き声が耳に入ることも
少なからずはあったのです

昼食をしがてら寄ったレストランの主人に
良い安宿はないかと尋ねてみると
一人旅をする私の身を案じてくれたのか
道案内までかって出てくれました
が、どこまで歩いても宿など見当たりません
そこで他の人に宿の所在を尋ねてみると
先の主人と同様に道案内をしてくれるのです
でも、やっぱり宿など見当たりません
こんな調子で道案内が一人加わり二人加わり
しかも誰も帰らず皆ぞろぞろ付いて来るのです
男達にどうお引き取り願えばよいものか…
−と、彼らがある建物を指し示しました
そこには色とりどりのドアが並んでいます

 「何か用かい?」

戸口に立ったのは大柄な中年女でした
奇妙な厚化粧と派手な下着姿
がっしりとした骨太の二の腕を露出したまま
怪訝な眼差しを私に向けています
彼女の後ろに開かれた薄暗い空間には
古びた椅子とダブルベッド以外何もありません
宿探しを続ける決心をしていた私の鼻先に
化粧臭い女の息が不意に注がれました

 「1ブロック先のホテルを訪ねてごらん
  そこは安全だから男らもあきらめるさ」

彼女は男達の行列を見やると
暖かい眼差しで私を促してくれました

人間の匂いが交じり合うこの地上で
救世主の名を掲げている小さな国でした (続く)

香泉
kosen.z.hitomi@gmail.com
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