No.46/2008年5月24日
絵と文:香泉

古風な木造の民宿で2階に案内されたとき
私は巻き貝の中をぐるぐる回っているような
妙な気分に襲われていました
家の中はどこもかしこも見事に歪んでいます
大地震が起きたのは何十年も前のはずでしたが
このまま使い続けていくつもりでしょうか?
洗面台やバスタブ、おまけに便器までもが傾き
そんな容器の中で水平に増減する水の律義さは
見る物全てを不信感に満たしてゆくようでした
平衡感覚を取り戻す為の外歩きにしても
港から一気に丘陵地という町では濃厚な潮風と
坂や階段の繰り返しに目が回るばかりです
更に行く先々、道端には酒臭い酔っ払い達が
まるで道標のように寝込んでいます
植え込みのベッドで腹を掻いているかと思えば
石段のリビングに座り込んで鼻提灯だったりと
家での様子そのままの酔っ払い達です
最も彼らの姿が百年以上戦争をしていない国の
「平和への道標」そんなはずもないのでしょうが
さて、そろそろ町も外れに来たようです
たぶんこの酔っ払いが最後かもしれません
丘の上には小さな家が一件あるきりです
男は家を目前に寝てしまったのでしょうか?

しかしその家は彼の住まいなどではなく
死者が眠る場所、つましいながらも廟でした
ここから先はもうお墓しかありません
あの男は誰かに会いたかったのでしょうか?

「〇×年、安らかにこの丘に眠る…」
同じような墓碑が幾つも見受けられるのは
震災のときのお墓なのかもしれません
どの墓にも使い古しのペットボトルが数本
逆さまに地面に差し込まれています
これらの中に水を満たして花を入れているのは
萎れない為の工夫なのでしょうか?
こんもりと茂る緑の向こうには水平線も望め
ここまで来れば海風も爽やかに感じられます
けれど風になびくことのない花達は全く無口で
生きている私まで沈めかねない足元でした(続く)

香泉
kosen.z.hitomi@gmail.com
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