No.45/2008年4月23日
絵と文:香泉

夏の到来には少しばかり早いこの時期
島はみごとに静まり返っていました
土産物屋も魚介類のレストランも扉を閉め
浜辺に建つ市場らしき小屋も空っぽです
もともと静かな島なのかもしれません
数カ月前、南に向かう途中で立ち寄った時も
やっぱりここは今と同じシーズンオフでした

あの時、人気の無い浜辺はまだ肌寒く
それでも歩いていれば日差しは暖かでした
今から思えばあれは確かに春の空気でしたが
行く先々で変化してしまう気候にすっかり慣れ
私は季節のことなど考えてもいませんでした
島の海岸沿いにはパステルカラーの家々が並び
どの家も鱗状の板壁で様々に飾られています
こうした島ならではの風景を見て回ることは
それはそれで目に楽しいひとときでした
ただ、真新しいカレンダーをめくるのに似て
すぐに飽きてしまう物見遊山だったようです
私は、気まぐれに雑木林の中を抜けてみたり
放牧されている牛を数えてみたりしながら
緩やかな坂を上っては下り、また上っては下り
まるで当てのないピクニックに出ていました
畑の畝々や遠くに建つ小さな家を眺めていると
なんとなく懐かしさの湧いてくる島でした
子供の頃に歩いたレンゲ畑の蜜の匂いや
草で編んだ腕輪の青い匂いが蘇ってくるのです

あの日、夕刻近くだったか小高い丘に出た私は
薄桃色の花の下を歩いていました
思いもかけなかった満開の桃畑です
それは歩いても歩いてもまだ桃の花で一杯の
ふわふわとした春の丘でした

今、桃畑の丘には青々と葉が茂り
甘酸っぱい風が通り抜けていきます
葉陰の実を見上げていると家族や友人の顔が
誰彼と無く浮かんでくるのはなぜでしょうか
向こうでは木枯らしが吹く季節なのに…
そう思うと無性に遠くなる私の国でした(続く)

香泉
kosen.z.hitomi@gmail.com
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