No.43/2008年2月21日
絵と文:香泉

フィヨルド北上の船旅がたった5日間とは言え
限られた観光船の上で有り余るのは時間でした
いつも通り船内の通路と甲板を散歩していると
今日も一等船室のサロンでは上品そうな人達が
ダンスをしたりグラスを傾けたりしています
同じ船の中にもまるで違う世界があるようです
直ぐに終わってしまう散歩から戻ってみると
狭苦しい三等のサロンは人が一杯でした
正面でひとり身振り手振りをする青年に向かい
様々な言葉が投げかけられています
当の青年は違う違うというように首を横に振り
皆は笑いが抑えきれないといった困惑顔です
ジェスチャーゲームでもしているのでしょうか
身振りが示す言葉を言い当てるゲームでしたが
彼のジェスチャーはまるで猿まねでした
食べて飲む真似の後に合わせた両手を頬に当て
スヤスヤ眠る…を、ひたすら繰り返し繰り返し
なぜか青年はへっぴり腰になってしまうのです
こんな時に突き出される尻は全く間抜けでした
勿論、彼の真面目さは皆理解していたはずです
ただ、私達が船上の有り余る時間の中にあって
道化を必要としていたのもまた事実でした
ゲームの正解が「人生」だと知ったとき
もはや笑わずにいられる者などいませんでした

その夜、真っ暗なフィヨルドのど真ん中で
船は何かを待ったまま停止を続けていました
甲板には荷物とつましい成りをした者達が並び
暗い海から近づきつつある光を見つめています
老人や子供も混じる一般の渡航客のようですが
この数日間一体どこにいたのでしょうか?
しかし彼らを見たのはこれが最初で最後でした
煌々とライトを灯した小型船が現れると
吊るされた荷物はゆらゆらと降ろされ
あの人達もまた渡り板を越えてしまい
フィヨルドのどこかへ消えてしまったのです
この観光船が定期便の顔を見せていた束の間
荷物の上に座り込んでいた女の膝には
子供の小さな頭が乗せられていました
行き先は「楽園」という名の島だそうです(続く)

香泉
kosen.z.hitomi@gmail.com
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