No.41/2007年11月30日
絵と文:香泉

最南端の町に辿り着いたとき
私はすっかり無口になっていました
出会いや別れを繰り返すうち、いつの間にか
重たい上着でも着込んでしまったのでしょうか

町が嫌ですぐに国立公園に向かった私でしたが
今日の景色は全く妙な具合でした
草陰から飛び出して来た兎は次々と逃げてゆき
それを遠くから見つめている狐もまた
私を避けるようにどこかへ行ってしまいます
枝々から飛び去ってゆく鳥達はもちろん
真っ赤な頭をした大きなキツツキでさえ
幹の反対側に隠れてしまいます
私は歩けば歩くほど森にひとり取り残され
ひとりから逃れる為にまた歩き続け、そうして
訳も分からずいつしか森を抜けていたのでした
沼に出るとついぞ忘れていた風が吹き抜け
上着は大きく風を孕み膨らんでいます
風が吹く度にふわっと浮き上がれそうです
もしも凧になったらどんな気分だろうかと
私の夢は風のまにまに浮かび出していました
木々を行き交う鳥達の羽ばたきに耳を傾け
キツツキの赤い頭や兎や狐の動き回る様子を
大きな凧になった私は悠然と眺めているのです
…に、してもです
私の糸は一体どこに繋がっているのでしょうか

ホーン、ホーン、ホーン…
私を地上に手繰り寄せたのは水鳥の声でした
この辺り一帯でよく見かける青灰色の雁です
水辺の風景には必ずつがいでいる鳥でしたが
珍しく一羽きりで佇んでいます
近づいて覗き見てみれば片足の先がありません
捕食者に狙われたのでしょうか?
雁はやおら翼を広げると少しだけ私から離れ
ただじっと遠くの空を見つめています
きっと近寄ってはいけないのでしょう
空には先程の雁の声が今も響いているようです
私は上着の背中を相変わらず膨らませたまま
簡素な沼の景色を眺めていました (続く)

香泉
kosen.z.hitomi@gmail.com
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