No.40/2007年10月11日
絵と文:香泉

強風に圧されて足を踏ん張っていたとき、私は
何か聞き覚えのある調べを耳にしていました
薄目を開けて辺りを見渡してみましたが
原野を飛んでゆく砂粒の透き間には
雲に巻き付かれた塔状の山が聳えるばかりです
幾つもの湖が青白い流れを広げたこの地で一人
いつしか私は風音に混じる調べを口ずさみ
一歩、また一歩と足を前に出していました
「風は僕達の魂だよ」と、こう言っていたのは
風が嫌にならないのかと尋ねられ
笑いながら片目を瞑った山小屋の主人でした

氷河に向かう道々、上空の変化は目まぐるしく
地上を歩く私には為すすべもありません
風雨に叩きつけられているかと思えば
突然青空が広がり、緩んだ風に和むのも束の間
一陣の風が砂粒を巻き上げると太陽は消え失せ
真っ暗な雲の下で風が唸りを上げるのでした
こんな中、氷河が間近に迫って来るにつれ
あの調べもまた大きくなっていました
遠く霞の中に消える氷の大河はひしめき連なり
それは魂の隊列にも似て、眼下の青白い湖面が
この世の境を映し出したと思える光景でした
…さて、氷河の縁に沿って水際に下りてみると
聳え立つ氷壁は真っ青な光を湛えています
吸い込まれそうな青です
足元に打ち寄せられた大小様々な氷のかけらは
刻一刻、湖へ注がれている氷河の崩落跡でした
…パンッ!氷壁から炸裂音が響いてきました
崩落が近いのでしょうか?耳を澄ましていると
地面からも振動が伝わってくるようです
地鳴りでしょうか…!?ふいに覚えた胸騒ぎに
私は慌てて背後の岩をよじ登っていました
そうして息をつく間も無く起きた氷河の崩落!
轟音と共に一挙に膨れ上がった水嵩は
再び一挙に嵩を下げると眼下の岩に水跡を残し
無数のかけらに覆われた青白い湖面に
巨大な氷の壁を浮かび上がらせたのです
そして今、再び聞こえてきたあの調べは
氷壁の青を一層青く見せていました(続く)

香泉
kosen.z.hitomi@gmail.com
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