No.39/2007年9月5日
絵と文:香泉

ペンギン営巣地を訪れた日は一日中雲が重たく
私は色の乏しい風景の下で少々凹んでいました
そんな気分の帰り道、風が吹き抜けるような
パッと開けた小さな湖に差しかかったのです
ピンク色の小波がふわりと舞い上がる湖面では
フラミンゴの群れが羽ばたいています
ペンギン達のいたあの鉛色の海と
それはまるで違う世界に見えたのでした…

荒い砂浜では、燕尾服姿の大行列がばらけ始め
続々と海に出て行こうとしているところでした
突然砂の上にうっ伏して転がったペンギン達は
小さな翼と足をパタパタと掻き動かし
波に向かって腹ばいのまま滑走しています
彼らの身のこなしは思いのほか素早く
そうして波が打ち寄せて来た途端
一群はザザーッと白い泡に押し上げられ
波に攫われるように沖へと泳ぎ出すのでした
逞しく果敢なペンギン達でしたが
私の気はどうしても沈んでしまいがちでした
風も唸れば雹や霰も降る海岸地帯です
彼らの営巣地は色褪せた草しか生えない原野で
草の根元には風で飛ばされた羽毛が絡まり
一見しただけで大小様々な骨が落ちています
すぐ後ろの原っぱでヨチヨチと歩く一行も
仕草だけを見ていればもちろん愛らしいのです
でも、ペンギン達のずんぐりした体も
小さな眼に宿しているシビアな光も
何かにじっと堪えているようで寒々しく
灰色の空を映しているあの冷たい海と
やっぱり同じ表情に見えてしまうのでした

フラミンゴは再び歩き始めた私に驚いたのか
群れの端の方で僅かばかり羽ばたいてみせた後
ほんの少しだけ奥に滑り去って行きました
そうしてまたもとのように長い首を下ろすと
淡い姿を水面に映しています
ようやく薄日が差し始めてきたとき
そういえば色は現れるものだったなあと思い
私は始めて海の方を振り返ったのでした(続く)

香泉
kosen.z.hitomi@gmail.com
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