No.33/2007年2月15日
絵と文:香泉

風の強い夜でした
放し飼いにしている番犬の唸り声が耳につき
思わず毛布を引き上げた私は
途端に押し寄せる他人の臭いに息を詰まらせて
何度も何度も寝返りを打っていました
「どうして宿に行ってみなかったんだろう…」
と、そんな私の後悔を知ってか知らずか
表の犬は慣れ親しんだ家族とは違う私の臭いが
どうにも気に入らないようなのです

湖を渡る為の小さな船着き場を持つこの村は
雄大すぎる自然以外何も無い寒村でした
移動続きで疲れていた私は村に到着したら
明朝の船出まで宿で休もうと考えていました
ところが、バスで隣り合わせた女の言葉を−
村の宿は乗船客で満室だという話を真に受け
迂闊にも困惑顔で彼女を見てしまったのでした
その女というのは乗合バスの発車直前
慌ただしく乗り込んで来た丸顔の中年女でした
私の横に透き間を見い出した彼女は明るい顔で
その大きなお尻をみごとに収めてしまうと
窮屈そうにしている私にはてんでお構い無しに
なんだかんだと話しかけてくる大らかさでした
うちに泊まれと盛んに勧める彼女の言葉は
疲れた頭と体には煩わしくも有り難く、結果
私は女の強引な好意に屈してしまったのです
こうして素朴なこの農家に案内されてみれば
私を迎えてくれたのはやんちゃ盛りの子供達で
畑から戻ったお父さんに事情を説明する女は
耳が痛くなるほどよく喋っていました
暖かい家でしたが、彼女達と共に過ごす夕べは
正直、私には少々億劫でした−そしてこの夜
一家は薄っぺらなジャガ芋を乗せた米を食べ
私は自分のパンとチーズで晩餐を終えたのです

女が私を船着き場まで見送りに出てくれたのは
ようやく薄明るくなりかけた時分のことでした
「以前も外国人を泊めたことがあるのよ
とても感謝されてね、25ドルもくれたのよ」と
そこで女は始めて言葉を切ったのでした(続く)

香泉
kosen.z.hitomi@gmail.com
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