No.30/2006年11月7日
絵と文:香泉

駅に降り立った時の爽やかな潮風が思いがけず
私は古めかしい駅舎から海を探していました
威風堂々とした歴史的建造物とビルの摩天楼
そして青々とした芝生と車と人と…
とにかく立派な街で海などどこにも見えません
埃っぽい身なりで荷物を背負った私は
自分の姿がひどくみすぼらしく思え
つい静かな裏通りに足が向いてしまうのでした

レトロな佇まいの裏道に人影は疎らです
どこかゆらゆらとした淋しさが漂い
逆さ回りの時計の上を歩いているようです
数メートル先を歩いている黒いドレス姿の女性
腰まで届く褐色の髪は柔らかそうでしたが
なぜか物寂しい空気を残す後ろ姿でした
訳も無く彼女を追うように歩いていた私は
気が付けば、とある墓地に立っていたのです
碁盤の目の中に整然と建ち並ぶ納骨堂には
どれもこれも豪華な彫像や彫刻が施され
まるで小さなお城を見ているようです
私は随分長いこと、小人の国の旅人よろしく
死者の国を物珍しげに彷徨っていました
…と、どこからか船の汽笛が聞こえて
街に着いた時に感じたあの潮風の吹く方へと
生きた街の方へと足を向けたのでした

石畳の広場にはアコーディオンの音色が流れ
きびきびとステップを踏み出す踊り手に見物人
それをよそに片付けを始めている店主や
売る気があるのか無いのか煙草をふかすだけの
ガレージセールのにわか店主達がいました
今日は骨董市が開かれていたようです
黒い服を着た女性を見かけたので
思わずそちらの方に近づいてみましたが
あの裏通りを歩いていた女性とは別人でした
彼女の前にはレトロなガラス器が雑然と置かれ
面白くも無さそうに煙草をくゆらしています
アコーディオンの音に乗る風は少し投げやりで
木漏れ日の差し込むガラス器を覗いてみれば
年代物の埃がキラキラ踊る午後でした (続く)

香泉
kosen.z.hitomi@gmail.com
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