No.29/2006年10月4日
絵と文:香泉

どうにか雨脚が弱まってきたのは
町に着いて三日三晩が過ぎた朝のことでした
二つの国に跨がる巨大な滝はもうすぐそこです
外はひどい水浸しでしたが暗い宿にいるよりは
衣服を濡らして歩く方がまだしも自由でした
ふいに圧倒的な水の匂いが押し寄せた時、私は
全身が沸き立ち足を止めたのでした−それは
予想だにしなかった壮大な振動だったのです

天も地も無数の飛沫で煙らせてしまう大振動は
巨大なU字形をした怒涛の絶壁、大瀑布でした
あの遠くの絶壁まで何キロあるのでしょうか?
巻き上がる飛沫と雨との区別も無く
あたかも海が割れたように落下する大瀑布は
遥か上方の密林台地から押し寄せて来る泥水を
奈落の底へと猛烈な勢いで溢れさせています
怒涛の絶壁の足元には巨大な渦が幾つもうねり
出口を求めて唸りを上げています
そのすぐ上には古びた流木が引っ掛かり
押し寄せて来る泥水に揺さぶられています
流木の回りでは草木が流れに翻弄され
見え隠れを繰り返しているのです
ここ数日の雨で水量が増したのかもしれません
見れば、上方の密林台地が明るくなっています
降り続いた雨もようやく上がったのでしょう
雲間から差し始めた光に遠くの絶壁が照らされ
少しづつ、瀑布全体も明るくなってきています
鮮やかな光がふっと現れたのはそんな時でした
向かい合う滝の間に弧を描くように虹を映し
七色の光の中であの流木がころんころんと翻り
熱帯雨林の泥水の中に消えていったのです
それは本当に僅かな、一瞬の出来事でした

町に戻ってみると青空も覗き、赤土の地面には
大きな赤い水たまりが幾つもできていました
子供達の黄色い長靴が赤く染まっています
盛んに歩き回っている鶏も草を食んでいる牛も
みんな真っ赤に染まった雨上がりでした
街路樹から落ちてきた雨の名残でしょうか−
水たまりの上には波紋が広がっています(続く)

香泉
kosen.z.hitomi@gmail.com
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