No.27/2006年7月31日
絵と文:香泉

再び空気の薄い高原地帯に舞い戻って来た私は
この数日間、広大な砂漠を巡るジープに同乗し
幻想的で夢のような時を過ごしていました

太陽に晒された滑らかな岩の台地では
毛並みの硬い小耳兎がひょいと現れると
不似合いな長い尻尾を見せては消えてしまい
遠くの砂丘に点々と現れる巨岩の群れなどは
石化した巨大木馬の隊列を思わせる光景でした
水の消えた塩湖に浮かぶ砂礫の島では
ふさふさ刺のサボテンがそこかしこに佇み
じっと宇宙の深さを見つめているふうでしたが
実際、乾季の塩湖は塩の惑星そのもので
ただただあるのは白銀の眩しさだけなのでした
水跡を留めた塩の結晶大地が続く彼方には
水鏡を映した島々の蜃気楼がくっきりと浮かび
気が付けば、私を乗せたジープもまた地を離れ
白銀の中空を滑っているかのようでした
そのくせ夜明け間近にライトを点けて
砂丘をひた走るジープはまるきり玩具のようで
暗いままの空の一方を見れば大きな月が浮かび
反対側に向き直れば偉大な空っぽがあるのです
そしてとうとう大気が輝くあの瞬間が訪れると
明けた空には月の面影だけがとり残され
ジープの後方で上がっていた砂埃が
容赦ない太陽で黄色く煙ってしまったのでした

さて、私は砂の惑星を走るジープと別れた後
バスの中でも車窓に流れる景色から離れたまま
幻想的な光景の中に居続けていました…ふいに
一本の枯木が窓ガラスの前でピタッと停まり
その下ではやつれた数人の女や子供が佇んで
こちらの方に手を伸ばしているのでした
運転手は袋を手にして車内を回っています
袋の中にはパンや菓子や果物が少しづつ入り
そして一杯になり女達に手渡されていきました
痩せた枝にはチビた若葉がしがみついています
窓越しに出会った春は厳しい現実です
それでも、風に吹かれてちらちら揺れる緑は
私を地上に引き寄せてしまうのでした(続く)

香泉
kosen.z.hitomi@gmail.com
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