No.24/2006年4月24日
絵と文:香泉

汽車はけたたましい汽笛と黒煙を上げ
空気の薄い高原地帯をひた走っていました
私は扉を開け放った乗降口に腰を下ろし
次々に現れる草に靴先をなぶらせながら
間近に見える空や山を飽きもせずに眺めたり
追いかけて来る犬に驚いて足を引っ込めたりし
慎ましい人家や草を食む家畜を見つけては
流れゆくそれらをいつまでも見送っていました
あまりにも雄大すぎるこの世界の一点では
家畜の横で佇んでいる少女の輪郭ばかりが
やけにくっきりと焼き付いたりもするのでした

こんな汽車の旅が一変したのは
扉を閉めるよう乗務員に促されて間もなく
汽車がトンネルに突入したときのことでした
線路を駆る轟音と闇の中で私は手摺りに捕まり
扉の脇に虚ろに浮かぶ女の顔を見ていたのです
透き間から入り込んでくる冷たく煤臭い風が
ビュービュー音を立てています
疎らに伸びた長い髪の毛と剥き出しの歯並び
突き出た両頬骨の上に空いた真っ暗な眼…
背筋に冷たいものが流れていきます

そして突如─
闇は途切れ空と山と湖が一挙にやって来ると
私は思わず扉を開け放っていました
女の顔はとうに消えていましたが
湖上を見ればくねくねと伸びる異様な花が現れ
胸苦しい思いを消すことができません
乗降口に腰を下ろしていた先程までの楽しさも
今となっては遠い昔の出来事でした

さて−
後味の悪い汽車の旅から数日が経ち
私は博物館の分厚いガラスケース越しに
あのときの亡霊の顔を再び見いだしたのでした
半身を起こしかけたように横臥したミイラは
空洞の眼でじっと天を見つめていましたが
そこには何をもってしても埋めようのない闇が
大きく口を開けているようでした (続く)

香泉
kosen.z.hitomi@gmail.com
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