No.23/2006年3月21日
絵と文:香泉

テントを打つ雨音で目を覚ました朝
そこは遺跡まであと少しの地点でした
早々に歩き始めて程なく雨も小降りになり
湿った草木や土の香りで溢れる山の空気に
ふと、霧が出たかと思い足を止めると
白いふわふわが前方へと流れ去っていきました
それは林立する山々の間を流れる雲でした
そんなふわふわが一つまた一つとやって来ては
尖った山と山の間にするすると吸い込まれ
やがて私も湿った草をかすめてするすると…
ええ、本当にするすると流れる旅に出たのです

尖った山が幾重にも連なる山間のとある谷には
ひっそりとした暗い草むらが生い茂り
薄桃色の花がささやかな明かりを灯しています
虹に照らされた山間を覗き見てみれば
群棲する苔類が彩り豊かな模様で谷を飾り
そしてまた開けた山間を通り抜けてゆくと
琥珀色の湖が様々な表情を映し出していました
手前の山から鳥の囀りが響いてきたかと思えば
瞬く間にその声は左手から後方の山へと移り
彼方からはまた別の囀りが響いてくるのです
私は知らず知らずのうちにするすると上昇し
かなりの高所にまで旅してしまったようでした
ここには背の低い枯れ草と石の他は何も無く
冷気と湿気がとめどなく染み込んできます
上がりかけていた雨は霧雨から驟雨に変わり
草や石の間からも雨水が流れ出してきました
すると雲の旅は突然に終わり
峠の岩に掴まった私は遠く雨に煙る山々を
途方に暮れて眺めるしかありませんでした

その後私は幾つもの山を下りたり登ったりして
今ようやく整然と開けた石積の都市遺跡の姿を
前方の山の上に確認することができたのでした
そして−
雨は石積の上にも降っています
世界中から集まって来たカラフルな傘の群れが
華やかに揺れては行き交う空中都市で
私もまた傘を差し歩いていました (続く)

香泉
kosen.z.hitomi@gmail.com
インデックス
No.1〈2004年5月3日〉
No.2〈2004年6月4日〉
No.3〈2004年7月4日〉
No.4〈2004年8月4日〉
No.5〈2004年9月5日〉
No.6〈2004年10月4日〉
No.7〈2004年11月5日〉
No.8〈2004年12月4日〉
No.9〈2005年1月11日〉
No.10〈2005年2月14日〉
No.11〈2005年3月14日〉
No.12〈2005年4月14日〉
No.13〈2005年5月14日〉
No.14〈2005年6月14日〉
No.15〈2005年7月14日〉
No.16〈2005年8月15日〉
No.17〈2005年9月16日〉
No.18〈2005年10月16日〉
No.19〈2005年11月16日〉
No.20〈2005年12月15日〉
No.21〈2006年1月19日〉
No.22〈2006年2月20日〉
No.23〈2006年3月21日〉
No.24〈2006年4月24日〉
No.25〈2006年5月25日〉
No.26〈2006年6月29日〉
No.27〈2006年7月31日〉
No.28〈2006年9月4日〉
No.29〈2006年10月4日〉
No.30〈2006年11月7日〉
No.31〈2006年12月8日〉
No.32〈2007年1月11日〉
No.33〈2007年2月15日〉
No.34〈2007年3月19日〉
No.35〈2007年4月20日〉
No.36〈2007年5月28日〉
No.37〈2007年6月28日〉
No.38〈2007年8月2日〉
No.39〈2007年9月5日〉
No.40〈2007年10月11日〉
No.41〈2007年11月30日〉
No.42〈2008年1月17日〉
No.43〈2008年2月21日〉
No.44〈2008年3月21日〉
No.45〈2008年4月23日〉
No.46〈2008年5月24日〉
No.47〈2008年7月16日〉

トップページに戻る。