No.19/2005年11月16日
絵と文:香泉

高山帯の湖や氷河を周遊するツアーバスは
一日で雄大な自然観光を苦もなく楽しめた反面
自由な旅に慣れた私には少々忙しなく
帰り道は物足りなさを補うように景色を眺めて
運転席の方にまで身を乗り出していました
事件はそんな時に起きたのです

ピシッ!
一瞬の鋭い音がなにとも知れず
突如、霰のようなガラス片が降ってきました
急停車したバスの衝撃でつんのめった私に
運転手は大丈夫かと言うように手を差しだし
しばらく外の様子を伺っていましたが
辺りには土壁の小さな家が一軒あるきりで
息を押し殺したようにひっそりとしています
私の側で床を調べていた車掌は小石を拾うと
合点がいったように運転手に合図をし
すぐさま土壁の家に向かって行きました

数分後、家から子供達の泣き出す声が上がり
女の激しい叱責に混じって聞こえてくるのは
打ちすえるような音でした
泣き声も叱責ももはや叫び声に変わっています
戻って来た車掌は運転手から書類を受け取り
再び家の中に入って行きました
運転手は窓枠に残っていたガラス片を外すと
すっかり風通しの良くなった窓から顔を出し
依然静まらない家の方を見ています

「パチンコで狙ったんだよ
 子供の悪戯だから親が弁償するしかない」

ハンドルを握った彼はそう話してくれましたが
こんな何も無い砂漠状の山で暮らす一家に
一体どうしてお金を工面できるのでしょうか?

車掌を乗せて私達のツアーバスが走り出した時
土壁の家はいつまでも後方に取り残され
ガラスの無くなった窓から吹き込んでくるのは
容赦のない冷たく雄大な空気でした (続く)

香泉
kosen.z.hitomi@gmail.com
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