No.18/2005年10月16日
絵と文:香泉

「温泉」という名の町で泊まった宿にもまた
お馴染みの共同シャワーが付いていました
湯はおろか水さえ止まりかねないシャワーです
出来損ないのシャワーにも慣れてきたとは言え
入浴を欲しない感性というのが不思議でした

温泉は静かな山間の小道を歩いていくと
その行き止まりにありました
それがプールだということは聞いていましたが
子供達のかん高いはしゃぎ声が山に響き
バシャバシャと弾ける水の音も大層賑やかです
出入り口正面の子供用プールには滑り台もあり
浮輪を着けたチビッ子達であふれています
きっとこの辺りに住む子供達なのでしょう

奥にある大人用プールの方は案外静かでした
ただ、土色の生ぬるい水は温泉気分とは程遠く
泥臭い川の中で泳いでいるようです−そこで
浸かりながらお喋りを楽しむことにしました
私の国の湯に浸かる習慣について話をすると
それは心臓に悪いと年配の者から心配され
水シャワーを浴びるよう他の者からも勧められ
先住民は生涯風呂に入らない話を誰かがすると
彼らは肘から先の両手と膝から先の両足と
あとは首から上を洗うだけだと別の者が説明し
いくらか不愉快そうな皺を鼻に寄せています
差別や偏見をすっかり忘れたとしても
度々悩まされるあの匂いは確かに強烈なのです

さて、肌寒い風と閉館の音楽に急き立てられ
私達最後の客が出口に向かっていると
誰もいなくなった子供用プールの青い階段を
ひとり、先住民の女が降りていきました
水はもう抜かれ始めています
荷物を背負ったままの女は腰を折り曲げ
土に汚れた足と手を水に浸しています
係の者も帰りがけの客も誰も何も言いません
水は猛烈な勢いで排水口に吸い込まれていき
女は次第次第に減ってゆく水をすくっては
ゆっくりと顔を洗っていました (続く)

香泉
kosen.z.hitomi@gmail.com
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