No.16/2005年8月15日
絵と文:香泉

小さな町の大きな広場で催される市の日は
山の部族社会に訪れる週に一度の賑わいでした
晴れた空に炭焼き肉の煙が狼煙を上げています
農夫や露店商、日用雑貨から家畜にいたるまで
ありとあらゆる人と物とで広場は埋め尽くされ
物売りの女や子供達は道端にも繰り出して
茹でた豆やコーンを山盛りにしたバケツを前に
実にのんびりと商売に励むのです
さて、私は広場の中程を目指していました
こんがり焼かれた丸焼きの豚を見つけたのです
牙に見立てた大きな赤唐辛子が口元に飾られ
威風堂々とした豚の王様は良い匂いがします
さっそく肩の肉を一皿貰いましたが
この哀れな豚の顔を見るにはやはり忍びなく
皿を持ったまま市の様子を眺めていました
手に取れば泥や傷みで黒ずんだ野菜や果物も
陽気な営みの中で並べて見ればとても鮮やかで
生き生きと楽しさが溢れてくるから不思議です

ざんばら髪の男を見かけたのは
そんな長閑な賑わいのさなかでした
地べたに引きずるほどの長い太縄を
ぼろを纏った華奢な体にぐるりと巻き絡ませ
その先端を胸の前でしっかりと結んでいます
首の上で取り残された頭が崩れ落ちそうです
男は囚われ人のようによれよれと歩き
この広場に胸苦しい思いを残していくのです
気が付けば、豆売りの女が私を見ています
人差し指を頭の横でくるくるっと回してみせ
「ありゃ気違いさ」と、素っ気なく言うと
豆を手に取り味見をするよう促します
きっとただそのままを言ってくれたのでしょう
豆は、例に漏れずバケツにどさっと入れられ
素っ気ない言葉と同じく飾り気も無いのですが
塩味が効いて美味しい茹で上がりです

皿を返しに行くと、豚の王様はもう骨だらけで
肉片と油で汚れたベニヤ板が露出しています
ただ、口元に飾られた赤唐辛子だけが残されて
王様の威風は少しユニークでした (続く)

香泉
kosen.z.hitomi@gmail.com
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