No.14/2005年6月14日
絵と文:香泉

ここのところ、私はひどく苛立っていました
旅行者が当然感じる不便や違和感のみならず
往来を不器用に歩くゴキブリにまで腹を立て
旅などしている自分がひどく不自由で
心の底には重たい疲れが溜まり始めていました

「お金、お金…」
浮浪児がひとり、執拗に纏わり付いて来ます
しかし、無視を決め込んでいる私でした
彼らは確かに哀れな戦争孤児です
でも、何でも恵んでもらうとする貧しさが
今日はとにかく無性に嫌でした

交差点−信号は赤です
浮浪児は正面に向き直ると露骨に手を差し出し
一方、私はそんな少年を睨みつけたまま
赤信号を腹立たしく思っていました
ふと、この浮浪児がやけに小さく見えましたが
背丈は私と同じくらいかもしれません
黒ずんだ瞼はおそらく麻薬のせいでしょう
少年は注意深く私を見ながら
後ろ手に何かを握った様子を見せています
ナイフでも隠し持っているのでしょうか?
お金が出てこなければ刃を剥く
これが哀れな孤児や貧乏人のやり方なら
ええ、殺りたければ殺ればいいのです
結果、不自由から解放されるのは私なのだから

信号は青です−しかし、依然私達は睨み合い
誰もがじっと息を詰めたまま微動だにしません
ところが、結末は突然に訪れました
私が浮浪児の眼の中に映る自分自身に気づき
はっとしたまさに同じとき、少年の疲れた瞳が
今にも崩れるかのように揺らぎかけ
布切れか何かのように身体を翻すと
逃げ出すように走って行ってしまったのです

再び動き出した交差点では誰も彼もが急ぎ足で
もちろん私に声を掛けてくる人などもいません
もうすぐ信号は赤になるのです (続く)

香泉
kosen.z.hitomi@gmail.com
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