No.11/2005年3月14日
絵と文:香泉

この宿は古い造りでした
受付を済ませて明るい中庭に出ると
どの部屋の扉も私を囲むように並んでいます
案内された扉を開け自分の部屋に入ってみると
私は全くひとりでした−窓はありません
きっと外からの侵入者を防ぐ為なのでしょう
ベッドに腰を下ろして目にできる物と言えば
斜めに掛けられたままの粗末な絵と
塗りむらだらけの薄汚れた壁と
あとは、音も無く床を滑っていく綿埃でした
塵取りを無くしてしまったのか怠慢からなのか
塵をベッドの下にでも隠してあるのでしょう
扉を開けると、癖のある香りが漂ってきます
誰かが虚ろな時を過ごしているのでしょうか
油を含んだような匂い、ハシシです

「海に行こう」−そう思い立ったのは
ただ爽やかな風に当たりたくてのことでしたが
どこにでも纏わり付いてくるような暗さを
吹き飛ばしてしまいたかったのかもしれません

下町の雑踏を抜けて大通りを渡ると新市街です
奇麗に整備された歩道沿いには
こざっぱりした店やオフィスが並んでいます
ガラスの反射で目が眩むようです
あの行き止まりに見えるヤシの並木
きっと、その向こうが浜辺なのでしょう
海はもうすぐそこです

繰り返し打ち寄せる波の音に包まれて
さんざめく人々の笑い声と音楽が混じり合い
マラカスを手に若者達が踊りだしたかと思えば
誰かの投げたビーチボールが波に乗り
集まる子供達の水飛沫が真っ白に弾けています
吹く風も寄せる波も、そして一面の砂粒も
捕らわれなど何も無く全てが自由でした

ただ、家族や仲間同士が集う広がりにあって
一緒に笑う相手も無く、一人で歩く気不味さを
どうしても忘れさせてくれない海でした(続く)

香泉
kosen.z.hitomi@gmail.com
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