No.10/2005年2月14日
絵と文:香泉

「国はどこ?」「仕事は?」「給料は?」
黄色い電球に照らされた安食堂で
私はお馴染みの質問攻めにあっていました
どういう訳か居心地が悪くて仕方がありません
私だけ肌の色が違うからでしょうか

入植者達によって造られた港の旧市街
そこには、古の香り漂う建物が並んでいます
かつての宗教裁判所もその一角にありました
重苦しく軋む階段を上っていくと
様々な拷問の道具が天井から吊るされ
空っぽの拷問台がいくつも据え置かれています
果たしてどこの神様が
こんな仕業を私達人間に許すのでしょうか
土壁に展示されている銅版画に目を移すと
奴隷達が鞭で打たれ道端に転がっています
それは、あたかも風景のようです
入植者も奴隷も、そして異教徒も
皆この世に生を授かった人間であったはずです
ここには、血生臭い悲鳴や苦しみが押し込まれ
今なお地獄のままの冷たい空気が流れています
地を蹴る馬の蹄や車輪の音が
姿も無く、ただ響いては遠のいて逝きます
人間が残したこの過去の臭気を
一体どうやって消せば良いのでしょうか

しかし、旧市街を越え浜辺へと抜けてしまえば
海の風に洗われた真っ青な空があるのです
音楽と共に行き交う黒人達の優雅な足取りに
ココナッツやコーヒーを売り歩く子供達の声
そして、色鮮やかな果物の前に座る女性達の
鋼のような笑い声が響いているのです
時代も世代も、とうに変わっているはずでした

私は、差し出されたソーダ水を眺めていました
瓶の中に美しい海が見えるようです
ふと、今一番欲しいものは何かと
横でビールを飲む土産物売りに聞いてみました
「…仕事」当然でした
ここにいるのは日銭が頼みの黒人達です(続く)

香泉
kosen.z.hitomi@gmail.com
インデックス
No.1〈2004年5月3日〉
No.2〈2004年6月4日〉
No.3〈2004年7月4日〉
No.4〈2004年8月4日〉
No.5〈2004年9月5日〉
No.6〈2004年10月4日〉
No.7〈2004年11月5日〉
No.8〈2004年12月4日〉
No.9〈2005年1月11日〉
No.10〈2005年2月14日〉
No.11〈2005年3月14日〉
No.12〈2005年4月14日〉
No.13〈2005年5月14日〉
No.14〈2005年6月14日〉
No.15〈2005年7月14日〉
No.16〈2005年8月15日〉
No.17〈2005年9月16日〉
No.18〈2005年10月16日〉
No.19〈2005年11月16日〉
No.20〈2005年12月15日〉
No.21〈2006年1月19日〉
No.22〈2006年2月20日〉
No.23〈2006年3月21日〉
No.24〈2006年4月24日〉
No.25〈2006年5月25日〉
No.26〈2006年6月29日〉
No.27〈2006年7月31日〉
No.28〈2006年9月4日〉
No.29〈2006年10月4日〉
No.30〈2006年11月7日〉
No.31〈2006年12月8日〉
No.32〈2007年1月11日〉
No.33〈2007年2月15日〉
No.34〈2007年3月19日〉
No.35〈2007年4月20日〉
No.36〈2007年5月28日〉
No.37〈2007年6月28日〉
No.38〈2007年8月2日〉
No.39〈2007年9月5日〉
No.40〈2007年10月11日〉
No.41〈2007年11月30日〉
No.42〈2008年1月17日〉
No.43〈2008年2月21日〉
No.44〈2008年3月21日〉
No.45〈2008年4月23日〉
No.46〈2008年5月24日〉
No.47〈2008年7月16日〉

トップページに戻る。