Monthly Essay オーイ! 絵と文:香泉

〜その20〜
2015年11月13日



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香泉の旅物語「ゼロの細道」

chapter-1 惑星の輝き
chapter-2 青い故郷の風
chapter-3 深海の闇より
chapter-4 親愛なる君へ
chapter-5 エヴァーラスト
chapter-6 スピリッツ


天道様、部屋の前の柿の木は、今年も屋根を超える勢いで茂りました。
ついこの間までのベランダ越しの眺めときたら、さながらジャングルのように大きな葉で覆われ、目の前に家があることも忘れてしまうほどでした。
実際、緑の濃さが命の密度であるならば、同じ地上に生きるものとして喜ぶべきことなのかもしれません。
でも虫達の繁栄があまりある季節ともなれば、鬱陶しい葉を片っ端から刈り落としたい衝動もまた抑えがたく、結果、緑の季節は、私にとって葛藤の季節となってしまうのでした。
とは言え冷たい風の吹くこの頃では、そんな葛藤も遠い昔の記憶です。

前、飛行機の窓から眺めた地上の緑は、鬱陶しさなど微塵も無くて思いのほかコンパクトでした。
こんもりと小さな絨毯が浮かんでいるようにも見え、それが伸びたり縮んだりしながら続いていました。
当時はそうした眼下の光景が、地上そのものの不確かさと相まってひどく頼りない気がしたものです。
今となっては地上の不確かさより、移ろいの速やかさの方に驚きを覚えるようになってしまいましたが。

のせいかお天道様、遠く空から俯瞰したときのあの魔法の絨毯のようなコンパクトさは、それはそれで当然なのだろうなと思ったりもするのです。
ちょっとした環境の変化でも、植物は見る見る様子を変えてゆきます。
実際、茂るにしても枯れるにしても実に速やかです。
その変化はとてもダイナミックなのに、移ろいがみごとにコンパクトなのです。
毎日少しづつ少しづつ移ろい、ある日を境に辺りの風景が一変されていたりするのですから。

うして秋となり、艶やかに熟した様々な実や、日々色づいてくる葉は持ち前の速やかさでもって、あれよあれよという間に冬の姿に変わりゆくことでしょう。
鮮やかな若葉が萌えていた頃を思えば、色も匂いも全てが変わる別世界です。
儚いといえば確かにそうなのでしょうが、ただこの別世界が、ひと繋がりの移ろいによって現れているなんて、やっぱり途方も無い気がしてしまいます。
しかも私自身もこの移ろいの中に在るのだと思うと、とてつもない時間を生きているようにも思え、たとえベランダを散らかす柿の葉でも、暫しそのままにしおきたくもなるのでした…、いえ、そうなるはずでした。

天道様、やはりここは人間の世界なのです。

ある朝カーテンを開けると、柿の木は綺麗さっぱり枝を払われていました。
実も葉も全て消えてしまい、一足飛びの冬姿です。
朽ちていく実を見せてくれたり、葉が落ちてゆく音を聞かせてくれたりする、この季節の柿の木ではなくなりました。
よそ様の木なので仕方ありませんが、お天道様、ええ、ベランダ越しの眺めだけは実に明るくなりました…。

◆柿の実も 枝葉も残らぬ 丸裸 追剥出たかと つくづく眺め
 

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