Monthly Essay オーイ! 絵と文:香泉

〜その8〜
2010年12月1日



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香泉の旅物語「ゼロの細道」

chapter-1 惑星の輝き
chapter-2 青い故郷の風
chapter-3 深海の闇より
chapter-4 親愛なる君へ
chapter-5 エヴァーラスト
chapter-6 スピリッツ


天道様、清々しい空色の季節は、あなた様の気配そのものが広がっているようです。
紅葉に燃える木々の枯れゆくさまにしても、単なる陽光の眩しさがもたらす輝きとはとても思えず、荘厳な力強ささえ感じます。
とは言え枝から離れた枯れ葉までもが、なぜああも輝いたり貴く感じられたりするのでしょうか?
つい先日も、はらはらと降りしきる枯れ葉の下で、何か別の世界に足を踏み入れたような、えも言われぬ光景に満たされたものでした。

の日は休日の朝だったこともあり、街はまだ静かでした。
ええ、私はバス通りにいたのです。見事なケヤキ並木が神社へと真っすぐに続き、駅前ロータリーが近いこともあってか、普段なら賑わいのある通りでした。
丁度道の向こう側に渡ろうと信号を待っていましたが、人通りもあまり無かったような気がします。一台の車が通り過ぎてしまった後は、車道も歩道も広場のようでしたから─。

はこの辺りは、日頃からなんとなく妙な感覚に襲われるエリアでした。
古い神社の御利益なのか、居並ぶ老木達の神通力なのか、懐の深い自然界を私に見通すことはかないません。
それでもこの世にあの世がスーッと入り込んで来るような、そんな感触を覚えることは、地上に住まう者ならよくあるものです。
あの世が、あたかも空気のようにさりげなく現れ、何でもないようにこの世は流れてゆく…、とまぁ、そんな感じでしょうか。

て、信号はまだ赤のまま。私は頭上高くに揺れる秋の色彩を楽しんでいました。
扇状に開いたケヤキの枝々が奇麗に晒されているところもあり、そう遠くないうちに離れてゆくだろう葉は、緑から黄色へ、そしてオレンジから茶色へとひらひらと揺れ、時折光を散らした葉っぱが視界を横切ってゆきました。
ただケヤキがつくりだす柔らかなアーチの、その向こうの空だけは揺らぐことのない青でした。

昔、若かった頃のケヤキの木々はどんな空を眺め、どんなふうに生きていたのでしょう。もともとはこの並木道も神社の敷地だったかもしれませんし、どの木も大切にされてきたはずです。
さぞかし鬱蒼とした森に囲まれていたのかしらとふと思い、どことなくスースーする秋を吸い込んでいるうち、私は街にいることを忘れていたような気がします。おそらくは…。

もなく信号は青に変わり、横断歩道の白線の上を落ち葉が滑ってゆきました。
目の前を、はらりはらりと枯れ葉が降りてきます。
上からもはらりはらりと、空に伸びる黒い枝々から離れ、大きい葉も小さい葉も、光をところどころにとどめては翻り、そうしてまた新たなひとひらが流れては去り、さらにまたひとひらひとひらと、並木通り一杯に現れた枯れ葉の流れでした。
朝の陽光を散らし、無数のひとひらが、キラリキラリと輝いていました。

天道様、あなた様の世界では、川はこんなふうに流れているのでしょうか?

々の世界が現れていた…と言ったら、あなた様は笑うのかもしれません。でもこれがもし天の川だったのなら、横断歩道のあちら側には誰が待っていたことでしょう。
牽牛が待つには季節が寒くなりすぎていましたが、私は白線の並ぶ橋をゆっくりと渡り、暫しこの世の重みを忘れていたのでした。

◆ひとひらが ふと枯れ色へと ひるがえる 散る揺らぐ散る 素となりしとき


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