Monthly Essay オーイ! 絵と文:香泉

〜その6〜
2010年7月23日



トップページに戻る
香泉のプロフィール
香泉のインフォメーション
香泉のイメージトレーニング
香泉の旅物語「ゼロの細道」

chapter-1 惑星の輝き
chapter-2 青い故郷の風
chapter-3 深海の闇より
chapter-4 親愛なる君へ
chapter-5 エヴァーラスト
chapter-6 スピリッツ


天道様、あなた様に何をお話しようかとあれこれ考えているうち、雨がちな季節はとうに去り、眩しすぎる空がすっかり広がってしまいました。夏への変化はいつもいきなりです。
それにしても梅雨が終わった直後、頭上の青空のなんと楽観的なことでしょうか!
山が崩れようが海が溢れようが、あの輝きだけは変わらないのかと思うと、やっぱり「凄いなぁ」と見上げるばかりです。

ころでお天道様、梅雨もこれからという頃より、うちのベランダにはハイビスカスが咲いています。
明るいピンク色の花は、雨が降りだしそうな日々ほど、円形に開いた花弁が眩しく映え、そして雲の後ろに控えていたはずの、この夏空の輝きまでみごとに反射しているようでした。
それはまるで彼の地を飛び回る、奇跡の鳥をも呼び寄せてしまいそうな明るさだったのです。

え、もう何年も前のことです。
旅先で見かけたハイビスカスには、グリーンやブルーに輝く小鳥が蜜を吸いにきていました。高速で羽ばたくハチドリです。
そこは朝晩ともなれば冷涼な風の吹く山地でしたし、赤道近くとは言え「こんな所で?」と、意外なほど可憐な花を眺めたものでした。緩やかな傾斜の道々、人為的に植えられたのか、ハイビスカスの大輪は、視界のどこかに必ず含まれていたように思います。
山には絵の具をふわっと散りばめたような優しさがありましたから、ハイビスカスの鮮やかさにしても、緑の透き間に表れるリズムのように、ごく自然に私の目を楽しませてくれていました。

うして耳元で炸裂した、「ブンッ!」と唸る衝撃だったのです。

は思わず辺りを見回していたのですが、何か異変が起きたわけではありませんでした。点々と緑が重なり合う景色はこの上なく平和で、視界の隅には色鮮やかな花と、ふいに現われては消え、そしてまた現れる瑠璃色の小鳥がいるだけでした。
滞在していた宿の中庭でも見かけていた、これがハチドリでした。もちろん飛ぶ音を聞いたのは、散策に出た時が初めてのことです。

中、幾度となく「ブンッ!」と唸る衝撃に立ち止まってしまいましたが、飛んでいる姿が見えないだけに、妙な気分だったことを覚えています。
遠目で捕らえるハチドリの姿にしても、瞬間、蝶のように花から花へひらひら飛び移り、ふっと姿を消すと、次には離れた花の前で宙に止まったが最後、あとは扉でも閉まったかのように消えているのです。

天道様、瑠璃色の小鳥が飛び回っていたのは、本当にこの空気中なのでしょうか?これはまるで時空のジャンプです。
こんなハチドリの眼には、この世界がどんなふうに見えているのかと思うと、私も「ブンッ!」と飛んで、あの楽観的な空を覗いてみたくなりました。

ういえばうちのベランダにも、ブンブン唸る大きなハチが毎日来ています。もちろん瑠璃色のハチドリとは大分様子が違いますが、きっとハイビスカスの蜜に誘われてのことなのでしょう。
ただ南国のイメージが強い花も、ここ最近の暑さには疲れているようです。お天道様、できることなら彼の地とベランダのハイビスカスを結ぶ、そう、時空の扉でも開けば!
いえ、私も花も少しは涼めるかなと…。

◆彼の地にて ブンッ!と唸りしハチは消え 蟻がメシベを上っては下り


〈最新号を読む〉