Monthly Essay オーイ! 絵と文:香泉

〜その4〜
2010年3月14日



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香泉の旅物語「ゼロの細道」

chapter-1 惑星の輝き
chapter-2 青い故郷の風
chapter-3 深海の闇より
chapter-4 親愛なる君へ
chapter-5 エヴァーラスト
chapter-6 スピリッツ


天道様、私はいつもの景色がふと明るく感じたりすると、あなた様が近くに居るような気がして、耳をシーンと澄ましてしまうことがあります。春になり花が次々に咲き始めれば、それだけでも外は眩しく、あなた様を身近に感じる機会も増えるというものです。

所では、椿の花が随分長いこと目を楽しませてくれています。この辺の庭に椿はごく日常的な風景です。たぶん椿を好む人も多いのでしょう。そういえば私の知り合いにも椿好きの女性がいて、子供の頃、春先には椿の花や葉っぱでままごとをしていたそうです。地べたに広げたハンカチのお膳と、黄色い雄しべを頂いた色鮮やかな花の御馳走、そして風に飛ばされてしまう葉っぱのお皿が、今も彼女の記憶を彩っているのかもしれません。
こんなお膳ですから、万が一お天道様が座っていたとしても、不思議に思う子供はいなかったことでしょう。ひょっとすると私の知り合いも、あなた様の為にお気に入りの色の花を選んでは、「はい、アナタ」と手渡したことだって、ええ、もしかするとあったかもしれません。

、うちのベランダにも小さな鉢植えの椿が花を咲かせています。先日一輪の花が落ちてしまい、見れば花弁も雄しべも瑞々しく、手に乗せてもひんやりと柔らかでした。なぜか花弁の端には幾つもの小さな穴が穿たれ、茶色く縁取りされたそれらの穴からは、細かな光が点々と差し込んでいました。こうして花弁を通り抜けてくる光と、その日の朝に、ガラス越しに遭遇した光景とが一致する楽しさは、まさに春の陽そのものでした。

ラス越しの光景とは、メジロがこの椿を目がけてやって来たときの、ほんのヒトコマの出来事です。花弁に止まったメジロは、雄しべの付け根辺りにクチバシを差し込むという実に小鳥らしい素早い動作を見せ、一方、大輪を担う細い枝は、僅かな荷重にもたわんでしまうという自然の成り行きのままでした。
結果、枝先の花は下へ下へと顔を向け、メジロは逆さ吊りになりながらも翼を広げたりばたつかせたりと、何が何でも花弁から足を離さず、クチバシはと言えば、しっかり花の中心に突っ込み続けていたのです。
「あっ」と思う程の短い時間、私はガラスのこちら側で驚きと笑いを噛み締めていましたが、揚げ句、ただ瞬きをした本当にその隙に、パッと飛び去っていった来訪者でした。

はお天道様、私は丁度この日、先の椿好きの知り合いと待ち合わせをしていたのです。メジロのお膳となった椿をお土産にしたのは言うまでもありません。慌ただしく出掛けてしまい、あなた様が居たのかどうか、耳をシーンと澄ますことも忘れていましたが…。


◆赤に白 でもピンクの椿が 御馳走と 地べたに遊んだ ごっこの昔


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