Monthly Essay オーイ! 絵と文:香泉

〜その3〜
2010年1月21日



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香泉の旅物語「ゼロの細道」

chapter-1 惑星の輝き
chapter-2 青い故郷の風
chapter-3 深海の闇より
chapter-4 親愛なる君へ
chapter-5 エヴァーラスト
chapter-6 スピリッツ


天道様、私の住む地上では冷たい冬日が続いております。こんな寒空のただ中、あなた様はどんな景色をご覧になっているのでしょうか?それとも木枯らしや雪雲に姿を変え、西から東、北から南へと日々飛び回っているのでしょうか?

の季節、私にはお気に入りの景色があります。それは丁度、木枯らしが吹き始める頃から黒土の上に現れ始め、春になるかならないかの頃にはなんとなく消えてゆく、「土の気」とでも言うようなものなのです。
その場所には沢山の花木や果樹が植えられ、カリンの木も三本育っています。おそらくこの辺りの地主さんの土地なのでしょう。余った農地が使い道を待っている、といった道路沿いの緑地ですが、十分に手入れをされて土はいつもふかふかです。

て、乾いた風音が幾度となく通り過ぎ、冬枯れた緑地の一角が俄に華やいできます。最初は点々と転がっているだけのカリンの黄色い実が、冷たい夜を超えるたびにその数を増やし、点が線となり面となり、そうして息が白くなったある朝、黄色いリングが三つ、黒土の上に浮かび上がるのです。ええ、全部カリンの実です。

ちろんそれぞれリングの中心には一本づつカリンの木が立ち、細い枝を上に伸ばしています。大きな実とは不釣り合いの華奢な木です。それでも銀色に変化した冬の樹皮には、自力の強さを思わせる光が宿っています。
一方、地面に落ちたカリンの実は、なぜか鳥や動物に食べられることもなく、ときに雪化粧をしたり雨に洗われたりしながら、徐々に色あせていくようです。きっと土に還ってゆくのでしょうが、冬の空気が緩んでくれば春の花も香るようになり、リングの輝きが薄れるのも仕方が無いのかもしれません。
そういえばいつの年だったか満開の梅の頃に雪が積もり、名残雪から覗くリングが輝きを取り戻したことがありました。水分の多い雪が果皮を洗い、萎れかけた実を潤してくれたのでしょうか。

ころでお天道様、先日、私はこの緑地でちょっとした偶然に居合わせることが出来ました。いつものように黒土の上には黄色いリングが浮かび上がり、カリンの木には枯れた葉っぱと二〜三の実が残されていました。枝に着いたまま朽ちる実もあるのかしらと思ったその矢先、一つの実がふいに枝から離れ真下のリングに消えていったのです。少し遅れて届けられた、「ドッ」という微かな地響き。風もなく穏やかな朝の出来事でした。

◆木枯らしを 連れて来たのか 拭きたての 黄色い果皮にも 土の気撥ねる


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