Monthly Essay オーイ! 絵と文:香泉

〜その18〜
2014年4月14日



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香泉の旅物語「ゼロの細道」

chapter-1 惑星の輝き
chapter-2 青い故郷の風
chapter-3 深海の闇より
chapter-4 親愛なる君へ
chapter-5 エヴァーラスト
chapter-6 スピリッツ


天道様、春の陽はどうしてこんなに眩しいのでしょうか?
どんなに夜更かしをしていても不思議と目覚めてしまい、おまけにふらふらと出歩いてしまう。
ふと気づけば妖しい雲行きだったりもして…。
うららかな春こそ、案外そら恐ろしい季節なのかもしれません。

そういえばひと月ほど前にも春の陽光に誘われ、こんなふうに雑木林に向かったことがありました。
冷え冷えとした雑木林は一見して冬の色のまま、そのくせ辺りの色とは裏腹な艶めかしい空気が漂っていました。
気持ちが良い反面、すーっと冷たいものが通ってゆくような林の中、怖いような怖くないような…ええ、お天道様、ここには得体の知れない気配があるのです。

もちろん今は、雑木林にもさすがに春が吹き出しているのですが―

さな草花が枯葉の隙間を埋め尽くしていますし、群生の見られるところなど、それこそむせ返るほどに花を咲かせています。
木々にしても新芽が明るく透け、背高の木などは光のベールを纏ったようです。
未だ裸の木々でさえ明るさを増した木肌が滑らかで、林の中の光景は、あたかも根から光を吸い上げているかのごとく。
冬のつましさからすれば、事実艶めかしさは浮き立っています。

そうして同様にあの気配もまた、やけに目につく感じがしないでもないのです―

上高くまで揺れている山桜は薄淡く満開…美しいのにことさらにそら恐ろしく、黒々とよじれている幹や枝の絡まりは獣の凄味、でなければとぐろを巻いた竜です。
そして山桜の背後に繁る葉陰の重なり…闇が染みているような不気味さは、視界に入ったただそれだけのことでありながら、こちら側にまでその染みが広がってくるのです。
すぐ脇の真っ赤な椿にしても、禍々しいほどにびっしりと咲き乱れ、のみならず地べたにまで、生な色と強い匂いが撒き落とされています。

こうしたものどもからふいに押し寄せてくる気配、それらは警告や威嚇なのでしょうか。
そのくせあちら側からの攻撃は一切無く、ただ在るだけの得体の知れない気配。
こちら側からすれば、こんな恐ろしい話はありません。
あやかしの懐に入ってしまいかねないような、実態の知れない怖さだけが残されるのですから。

天道様、本当のところ、この雑木林はどんな世界なのでしょうか。
私に分かることと言えば、この林は途方もなく生きているのだなぁということぐらい。
それにこの土地が経てきた時の長さを思えば、きっと宿る方にも途方もない世界があるのでしょう。
今だってハナダイコンの群生しているあの辺りが、ええ、妙に薄明るく光っています。

やっぱりお天道様、ここにはあやかしぐらい潜んでいると、そう思っている方がまっとうなのではないでしょうか…。

◆古より あやかしの住まう 林なり 立ち入りを禁ずの 札は無くとも
 

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